目次
最長増加部分列・最長共通部分列
競技プログラミングでは、「最長増加部分列(LIS)」や「最長共通部分列(LCS)」を求めるものが出題されることがある。
これらは動的計画法により高速に求めることができる。
用語の意味
部分列
ある数列や文字列 $A=(a_1,a_2,...,a_N)$ がある時、部分列(Subsequence)とは、$A$ からいくつかの要素を抽出した列。
飛び飛びでもよいが、順番は元から変わってはいけない。
- $A=(3,1,4,1,5)$ とすると、
- $(3,1,1,5)$ や $(1,)$ などが部分列
- $(5,3)$ や $(1,1,4)$ は、元と並びが変わっているため部分列ではない
別の言い方をすると、以下の手順で構築できる列 $C$ が部分列である。
- $A$ の長さを $N$ として、$1 \le i_1 \lt i_2 \lt ... \lt i_k \le N$ を満たす添字列 $(i_1,...,i_k)$ を決める
- $C=(a_{i1},a_{i2},...,a_{ik})$ とする
空の列 $()$ を部分列に含むかどうかは定義による。
最長増加部分列
$A$ の部分列のうち単調増加なものを $A$ の「増加部分列」という。
同じ値を許すかは定義によるが、ここでは許さない(狭義単調増加)とする。
増加部分列のうち、長さが最も長いものを $A$ の「最長増加部分列」(Longest Increase Subsequence, LIS)という。
LISの具体的な要素は複数通り考えられる場合もあるが、長さは $A$ により一意に決まる。
元の数列 | $(5,3,7,4,1,4,6)$ |
増加部分列の例 | $(5,7),(3,6),(3,4,6)$ |
最長増加部分列の例 | $(3,4,6),(1,4,6)$ |
最長共通部分列
2つの列 $A$ と $B$ に共通する部分列を、$A$ と $B$ の「共通部分列」という。
そのうち長さが最長のものを「最長共通部分列」(Longest Common Subsequence, LCS)という。
LCSの具体的な要素は複数通り考えられる場合もあるが、長さは一意に決まる。
- $A=(1,2,3,4,5,6,7,8,9)$
- $B=(1,3,5,7,9,11,8,2,1)$
- 共通部分列の例
- $(1,2)$
- $(3,7,8)$
- 最長共通部分列の例
- $(1,3,5,7,9)$
最長増加部分列
最長増加部分列の長さ
動的計画法で求める。このアルゴリズムでは、最長増加部分列の内容自体は求まらない。
大きく分けて、二分探索を用いる方法と、セグメント木を用いる方法がある。前者の方が実装は楽。
二分探索を用いる方法
以下のDPをまず考える。
- $\mathrm{DP[i,j]}:=(a_1,...,a_i)$ から取れる長さ $j$ の増加部分列のうち、末尾要素が取り得る最小値
ある増加部分列の末尾に新たな要素 $x$ を追加できるかどうかは、現在の末尾要素が $x$ 未満かどうかさえ分かれば判定できる。
長さが同じなら末尾要素が小さい方が、追加できる $x$ の範囲が広いので、長さ毎に末尾が最も小さいものだけ記録しておけば十分となる。
以下の具体的なアルゴリズムでも示されるが、このDPは $i-1$ と $i$ では更新箇所が1箇所しかない。
よって、DPを2次元配列で持つのではなく、$i$ の次元は省略し、$j$ を添字に持つ1次元配列を破壊的に更新していくことで、より高速に求められる。
- $L=[-\infty]$ を用意する。
- $i=1,2,...,N$ の順に以下を1つずつ処理する。現在処理中の要素を $a_i$ とする。
- $Lの末尾要素 \lt a_i$ の場合、$L$ の末尾に $a_i$ を追加する。
- それ以外の場合、$L$ 上で二分探索して $a_i$ 以上の値が初めて出てくるindex $k$ を求め、$L[k]←a_i$ で置き換える。
- 最後まで処理した後、$L$ の最大のindexが、最長増加部分列の長さとなる。
計算量 $O(N \log{N})$ で求めることができる。
狭義単調増加の場合はbisect_left($a_i$ 以上が初めて出てくるindex)だが、広義単調増加の場合はbisect_right($a_i$ を超える値が初めて出てくるindex)を用いる。
A = (3, 4, 8, 5, 1, 6, 2, 7) i Ai L [-∞] 1 3 [-∞, 3] 2 4 [-∞, 3, 4] 3 8 [-∞, 3, 4, 8] 4 5 [-∞, 3, 4, 5] 5 1 [-∞, 1, 4, 5] 6 6 [-∞, 1, 4, 5, 6] 7 2 [-∞, 1, 2, 5, 6] 8 2 [-∞, 1, 2, 5, 6, 7] → LIS長は 5
Lを $\infty$ で初期化した長さ $N$ の配列として初期化すると、末尾に加えるか更新するかの場合分けが不要となる。
代わりに、毎回二分探索が実行される点と、最終結果からLIS長を求めるのに $\infty$ でない最大のindexを探す必要がある点で、実装の好みが分かれる。
セグメント木(or BIT)を用いる方法
二分探索を用いる方法は、実装がシンプルではあるが、拡張性の面ではやや低い。
最長増加部分列を求めるのにはセグメント木を使う方法もあり、そちらは多少、ひねったバリエーション問題にも対応できる。
- たとえば少し改変すると、最長増加部分列の個数を数え上げたりできる
以下のDPを定義する。
- $DP[i]=a_i$ を末尾に必ず使用するような増加部分列の中で、最長のものの長さ
$DP[i]=0$($i=1,...,N$)で初期化した上で、このDP配列をセグメント木に載せる。
$i$ ではなく、$a_i$ が小さい順に処理する。同率の場合は、indexが後の方から処理する。
(※広義単調増加の場合は、前の方から処理する)
$a_i$ について処理する際、$DP$ 配列の「$[1,i)$ の区間における最大値 + 1」が、$DP[i]$ となる。
区間最大値はセグメント木やBITで取得できるので、これで $DP[i]$ を計算し、更新する。
最終的に、$DP$ 全体の中での最大値が答えとなる。
こちらも計算量のオーダーは $O(N \log{N})$ となる。
二分探索と比べて定数倍や必要なメモリは重くなるが、一般的な競技プログラミングの制約の前ではまぁ、だいたい気にしなくていい。
i 1 2 3 4 5 6 7 8 A = (3, 4, 7, 5, 1, 5, 7, 3) i Ai DP [0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0] 5 1 [0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 0] [1, i)の最大値(波線区間) + 1 で、DP[i] を更新 ~~~~~~~~~~ 8 3 [0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 2] 1 3 [1, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 2] 2 4 [1, 2, 0, 0, 1, 0, 0, 2] 6 5 [1, 2, 0, 0, 1, 3, 0, 2] 4 5 [1, 2, 0, 3, 1, 3, 0, 2] 7 7 [1, 2, 0, 3, 1, 3, 4, 2] 3 7 [1, 2, 3, 3, 1, 3, 4, 2] → LIS長は4
最長増加部分列の復元
具体的な最長増加部分列の1つを求める場合。
二分探索を用いる方法で、$L$ の他に、以下の情報も持ってDPする。
- $prev[i]$: $a_i$ を更新したとき、$L[k]$ に格納したとして、その時点の $L[k-1]$ の値(先頭の場合は $-\infty$)
最後までDPしたら、復元する。
- $x=L[末尾]$ で初期化する。また、LIS復元用の配列 $S$ を空で初期化する。
- $A$ を逆順に走査する。$a_i=x$ となる $i$ が見つかったら、$S.append(x)$、$x ← prev[i]$ とする
- $x=-\infty$ になったら終了。$S$ を反転したものがLISとなる。
prevの記録・LISの復元は $O(N)$ でできるので、計算量は変わらず $O(N \log{N})$ となる。
バリエーション
最長増加部分列の個数
セグメント木を使う方法を拡張する。
- $DP[i]=a_i$ を末尾に必ず使用するような増加部分列の中で、(最長のものの長さ, その個数)
セグメント木なら、これは適切にマージできる。(長さが同じなら個数を合算し、どちらかが大きいならそちらを継承する)
$a_i$ について処理する際、$[0,i)$ の区間を求め、(最長の長さ+1, 個数) が $DP[i]$ となる。
計算量のオーダーは $O(N \log{N})$ となる。
最長共通部分列
最長共通部分列の長さ
2つの文字列A,Bがある時、「Aの部分列でもあり、Bの部分列でもある」文字列を共通文字列という。
そのうち最長のものを最長共通部分列(Longest Common Subsequence)という。
A | abcbdabc |
B | bdcaba |
LCS | bcba,bdabなど |
この長さを求めましょう、という問題。(このアルゴリズムでは、最長共通部分列自体は求まらない)
- Bの要素を1つずつ順番に処理する。現在処理中の要素を$b_k$とする。
- $L[i]$を、「“$a_1$~$a_j$” と “$b_1$~$b_k$” から長さが $i+1$ の共通部分列が作れるとき、$j$ が取り得る最小値」とし、更新していく。
- Bを最後まで処理した後の $L$ の値が埋まっている所の長さが、最長共通部分列長となる。
def lcs(a: str, b: str): L = [] for bk in b: bgn_idx = 0 # 検索開始位置 for i, cur_idx in enumerate(L): # ※1 chr_idx = a.find(bk, bgn_idx) + 1 if not chr_idx: break L[i] = min(cur_idx, chr_idx) bgn_idx = cur_idx else: # ※2 chr_idx = a.find(bk, bgn_idx) + 1 if chr_idx: L.append(chr_idx) return len(L) # --------------------------------------- print(lcs('>abcbdabc', 'bdcaba')) # => 4
- 以下の解説にあたっての定義
- 文字列Bの先頭 $k$ 文字を抽出した文字列を、$B'_k$ とする
- $AT(S)$ を、「Aの部分文字列$S$ の末尾文字の、Aにおけるindex」とする
- A:abcabc、S:bb だった場合、$AT(S)=4$
- ※1:
- 処理中の文字を $b_k$ とする
- ※1の時点で
bgn_idx
に入っているのは、$L[i-1]$、つまり「$AT(A$と$B'_{k-1}$ の長さ $i$ の共通部分列$)+1$」 - ここで「$A$と$B'_{k-1}$ の長さ $i$ の共通部分列」を $T$ とする(複数ある場合は、$AT(T)$ が最小のもの)
- ループ内でおこなっているのは、以下の確認
- $T$ の末尾に $b_k$ を付け足して長さ $i+1$ の共通部分列を作れるか?
- つまり、$AT(T)$ 以降に、文字 $b_k$ が存在するか?
- 作れたら、$AT(T+b_k)$ の値は?(これ+1が
chr_idx
) - それは、既に発見済みの他の共通部分列$T'$ より短いか?($AT(T+b_k)<AT(T')$ なら更新)
- 以上の繰り返しで、$L$ は更新される
- ※2:
- ループ途中でbreakされないで最後まで進むと、else節に入る
- ここで、$A$と$B'_{k-1}$ の最長共通部分列を $T_{max}$、その長さを $|T_{max}|$とする
- ※2の時点で
bgn_idx
に入っているのは、「$AT(T_{max})+1$」 - Aにおいて、
bgn_idx
より右に文字 $b_k$ が存在する ⇔ 最長共通部分列“$T_{max}+b_k$“が存在し、暫定最長共通部分列長を$|T_{max}|+1$に延長できる - 延長できる場合、$L$ に追加する
最長共通部分列の復元
$(|S|+1) \times (|T|+1)$ の配列上でDPを行い、途中の計算結果を保存しておくことで、最長共通部分列と共に、その具体例を構築することが出来る。
DPテーブルの構築
$S_{1 ... i}$ と $T_{1 ... j}$ のLCSの長さを $L_{i,j}$ とする。
$L_{0,j}=0,L_{i,0}=0$ とする。
$S_{i+1}=T_{j+1}$ の時
LCS長は1文字拡張できる。$L_{i+1,j+1}=L_{i,j}+1$
それ以外の時
LCS長は、片方の末尾を1文字削った2通りの長い方となる。 $L_{i+1,j+1}=max(L_{i+1,j},L_{i,j+1})$
これで、$i=1 .. |S|$、$j=1 .. |T|$ の2重ループでDPテーブルを小さい方から埋めていくことで、$L_{|S|,|T|}$ が最終的なLCS長となる。
具体例の構築
具体的な文字列は、DPテーブルから逆向きに復元する。$(i,j)=(|S|,|T|)$ とする。
$L_{i,j}=L_{i,j-1}$ または $L_{i,j}=L_{i-1,j}$ の時
同じである数字の方に$(i,j)$を移動する。両方同じ場合は、具体例が1つ構築できればいい場合は適当に1つ選んで移動する。
それ以外の時
$S_i=T_j$ であるはずなので、それをLCSに加え、$(i-1,j-1)$ に移動する。
0 1 2 3 4 5 6 7 M Z J A W X U 0 | 0 0 0 0 0 0 0 0 1 X |⓪ 0 0 0 0 0 1 1 2 M | 0❶① 1 1 1 1 1 3 J | 0 1 1❷ 2 2 2 2 4 Y | 0 1 1② 2 2 2 2 5 A | 0 1 1 2❸③③ 3 6 U | 0 1 1 2 3 3 3❹ 丸付きの数字を辿っていき、 7 Z | 0 1 2 2 3 3 3④ 黒丸の数字を拾っていくと、LCS(の1つ)は MJAU と復元できる
バリエーション
一方に出てくる文字に重複がない場合
$S,T$ いずれか一方に出てくる文字が全て異なることが分かっていれば、より少ない計算量で求められる。
ここでは $S$ の文字が全て異なるとする。
$S$ に出てくる順に、文字を数値に置き換える。$T$ もその置換に従って置き換える。$S$ に出てこない文字は取り除く。
S = B R O W N C A T ↓ S'= 1 2 3 4 5 6 7 8 T = W H I T E C O W ↓ T'= 4 x x 8 x 6 3 4 Sに出てこない文字(x)は、取り除く
最長共通部分列の長さは、$T'$ の最長増加部分列の長さとなり、$O(|S|+|T| \log{|T|})$ で求められる。